あわあわの世界

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(38)6-8:小さな洗面器にいっぱいの

***  空を炙る炎。広がっていく黒煙。  ”黒い靄”も密度を増しいて、もう避けて歩くことさえ難しい。  宿場町パティオ・ゼノリスの中心部を目指す茶色いマイケルたちは、涙目になりながら大通りと直角に交わる路地を走っていた。 「たまらん! 息...
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(37)あわあわの幕間3:輝く白毛の民 ケマール① 幸い

***  帝国が大々的に『輝く白毛の民』を自国のモノであると喧伝し始めたのは、ケマールの齢が10を数える前のことであった。  ほどなくしてケマールは捕らえられ、飼い主の元で教育(シツケ)を施される。  教育とは、それまでに培ってきた価値観を...
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(36)6-7:火の手

***  傷だらけのフードネコは、棒立ちになっている茶色いマイケルを眺めていた。  まるで、子ネコの成長を辛抱強く見守る、親ネコみたいな目。  その目がさらに茶色いマイケルをぞっとさせる。”そのボーガン”が”だれ”なのかは聞けなかったけれど...
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(35)6-6:その、ボーガン

***  暗がりでさえ明るく見える真っ白な毛。  それはスノウ・ハットに生まれたネコの特徴だ。  お祭りの日に地下道を照らしている白ネコ修道士さんたちほどの輝きは珍しいけれど、どのネコも身体のどこか一部に”白”を持っていた。茶色いマイケルの...
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(34)6-5:白い毛

***  受付ネコさんは『夜更かしをしなければ十分に休む時間はあります。目が覚めたら準備を始めて下さい』と言っていた。レースの再開は”その時”がきたら分かるのだという。  とはいえ、どれくらい寝ていいのか分からないというのはストレスがかかる...
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(33)6-4:ピサトの残り火

*** 「お前らの歳で『ネコネコ大戦』つってもピンとは来ないと思う。いや、俺らにしても当事者ネコじゃねーし、話に聞いただけなんだがよ。  『ピサト』っつーのは要するに暗殺ネコ集団だ。何かと引き換えに猫殺しをするっていう連中で、特に大戦の頃は...
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(32)6-3:神さまの序列

***  いつの頃からか神さまには上下関係が生まれたという。  基準は力の強さと影響力。  より広範囲に大きな権能を振るうことができる神、さらには他の神にも影響を及ぼすことのできる神が優位とされているらしい。地核の神を頂点とする『大神』には...
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(31)6-2:黒ネコさん

***  裸足で砂浜を歩くような柔らかい足取りで寄ってきた鬼ネコ面は、茶色いマイケルの左隣にあった椅子を、音を立てることなく引いた。  その正面でハチミツさんが、子ネコたちとは少し違った驚き方をしていたけれど、コハクさんが「兄ちゃん、違うっ...
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(30)6-1:宿場町パティオ・ゼノリス

***  夜の暗がりと、白熱灯のぬるい光さえあれば、どんな場所でも大体心地よく過ごせてしまうのかもしれない。  廃村みたいな雰囲気を漂わせていたこの町、パティオ・ゼノリスも、大通りの両側に並ぶオープンテラス付きの店々に橙色のランプが灯れば、...
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(29)あわあわの幕間2:大戦の残火 殺猫鬼ムル⑤ 殺猫鬼として

***  家畜を食肉にするまでにはいくつかの工程がある。  至極大雑把に分けると、 気絶させる血を抜く皮を剥ぐ中身を出すバラバラにしてさらに小さくする  の5段階。もちろん肉や”中身”には色々な部位があるし、洗浄も複数回行わなければならない...