スノウ・ハットの銀世界と茶色いマイケル⑬

スノウ・ハットの銀世界と茶色のマイケル 1. 茶色いマイケル

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「さぁさぁシロップ! シロップ祭り! 一緒に雪を染め上げよう!」

 迷路街の大人ネコたちは騒然とした。

 そりゃあそうさ、だって見慣れない子ネコたちが大挙して押しかけ、街を練り歩いているんだからね。

 そう、茶色いマイケルたちの群れは最初30匹くらいだったんだけど、あれよあれよという間に 雪と氷の祭典スノウ・ハットに参加していたものすごい数の子ネコを巻き込んでいた。

 何匹くらいか知りたい? たぶん300匹はいたんじゃないかな。子ネコたちだけで国ができちゃいそう!

 そんな大群の一番前で茶色いマイケルが音頭をとる。

「さぁさぁシロップ! シロップ祭り! 一緒に雪を染め上げよう!」

 後から続く子ネコたちも、

「「「シロップ・シロップ・シロップさ! おいしいシロップかけちゃおう!」」」

 と思い思いに、手をあげたりしっぽを上げたりしながら、合いの手を入れた。それはそれは元気がよくって、まるで子ネコのパレードさ。

 細い道、もっと細い道、もっともっと細い道を抜けて、やっと出てきた少し広い道。

 迷路街の大人ネコたちが、端っこに身を避ける。

 茶色いマイケルはニコニコ顔だったけど、うっすら目を開けて大人ネコたちの様子をうかがった。もしもお母さんネコたちの心配するような、危険なネコたちだったら子ネコたちが危ないからね。いくら大勢いるからって、たった一匹でもケガさせちゃったらお祭りが台無しだ。

 だけど……ほら、やっぱり!

 迷路街の大人ネコたちは はじめこそ驚いていたけれど、茶色いマイケルたちが楽しそうに行進していると分かると 微笑みを浮かべた。

 肉球を合わせてリズムを取るネコがいたり、ヒゲをピュンピュンさせて歌を口ずさむサビネコもいる。

 先頭に出てきて踊りまわっていたサビネコたちには驚いたけど、どのネコからも悪さをする臭いはなかった。みんなホントはお祭りがしたいんだ!

「あっ、あんなところに子ネコがいる。おーい、家にいないで一緒に行こう! あまーいシロップを雪にかけて食べようよーい!」

 太っちょ子ネコの呼びかけた方をみんなで見てみれば、むこうの家の窓に、二つの耳。サッと隠れたみたい。

 ふふふ、顔を隠したってわかるんだから。耳の奥、しっぽが踊ってる。

「おいでおいでおいで! 一緒に行こう、一緒に食べよう。一緒に遊ぼうよ!」

 するとピクッと耳がはねたよ。子ネコはやっぱり遊びが大好きだからね。

 恐る恐る出てきた錆び色子ネコは、だけどしょんぼりした顔をしていた。

「でもボク……」

 ノミの跳ねるような声。口元が見えなかったら、ネコの耳でも聴こえなかっただろうね。だけど茶色いマイケルはその音を拾った!

「シロップが……」

「そうだシロップ! ねぇみんな、シロップどれくらい余ってる!? ちゃんと十分な量は持ってきたかい!?」

 錆び色子ネコの声に被せるようにして、茶色いマイケルはみんなに向けて尋ねる。すると、

「あはは! 茶色いマイケルお兄ちゃんおかしいんだー! だってここに来るまでに たくさんたくさん シロップ買ってきたじゃないか!」

 そうだよそうだよーと声が重なってみんなが笑う。その背中、パンパンのリュックサックが カランカラン とビンの音を立てた。

「そうだったね。でもみんな、買い過ぎたと思わない? ボクたちだけじゃ食べきれないよ」

「えー、ボクは食べきれちゃうけどなぁ」

「ワタチは余るとおもうー」

「「「「「ボクたちもちょっと余るね」」」」」

「そっか! そしたら余る子はちょっとだけでいいから他の子に分けてあげようよ! 実はね、シロップを持っていない子たちがいるんだ」

 その瞬間、全ネコが消えた。

 そう思うくらい、静まり返った。

 キン、と冷えに冷えた、氷みたい。

 みんなが口を大きく開けて、これでもかと驚いた顔をしている。

 一分くらいそうしてたんじゃないかな。

 ようやく追いついてきた音は、ほとんど叫び声みたいなものだった。

 ―――――――――――ッ!!!!!!

 そうだよね。

 シロップ祭りの日にシロップを買えなかった子がいるだなんて、どんなによその街から来た子ネコでも、それだけは許しちゃダメなんだ!

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