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だけど、一日目のお祭りを楽しめない子供たちだって、二日目となると違ってくる。
昨日まで押し黙っていた子ネコたちが、猫をかぶっていたのかと思うくらい はしゃぎだすんだから!
お父さんネコお母さんネコはもちろん、兄弟姉妹ネコや、近所のお兄さん、お姉さんネコたち 総出で、子ネコたちの興奮に振り回される。
朝もまだ明けないうちから、下手をすると日付が変わる前から、子ネコたちの大きな瞳がランランと輝くよ。いくら寝かしつけようとしても、楽しみで楽しみで楽しみで仕方のない子ネコたちを寝かしつけるのは、ちょっとやそっとじゃあできないのさ!
こんな風に子供たちの心を 惹き付けてやまないもの。
どこまでも白い雪の上、夢でも描くように色とりどりの甘い蜜をかけて、それを好きなだけ食べていいお祭り。
そう、それが雪と氷の祭典二日目に行われる、シロップ祭りなんだ。
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去年のシロップ祭りはすごかった。
数日前から シロップ屋さんは売り切れ続出。スノウ・ハット中のシロップ屋ネコさんはみーんな困り果てた。仕入れようにも片っ端から在庫が売り切れちゃうんだからね。
お店を開け続けていると代わる代わる子ネコが訪ねてきて、
「シロップおじちゃん、シロップちょーだーい!」
って言って、目の前で小銭を数えだすんだ。頑張ってお小遣いを貯めてきたんだろうね。それが分かっちゃうからシロップ屋ネコさんも心が苦しくなる。
「ごめんねぇ、もううちのシロップは売り切れちゃったんだよ」
なんて言おうものなら子ネコは大泣きさ! ウーウーウーって サイレンみたい。
その子をなだめて一息ついたら、また別の子がやってきて小銭を数えだす。シロップ屋ネコさんは参っちゃうよ。こうなれば逃げるしかない!
お店を閉めて裏口からこっそり帰ろうとしたシロップ屋ネコさん。そこに、
「あー! シロップおじちゃんいたー!」
と子供たちの割れるような声を浴びせられちゃった。
群れに見つかったらおしまいさ。全身にしがみつかれてフラフラになって歩く姿を、茶色いマイケルがどれだけ見かけたことか。
そんな騒動も、シロップ祭り前日になったら落ち着いた。
なんでもシロップに使われる有名な木の実を、近くの国がたくさん分けてくれたんだって。大急ぎで作られたシロップだったけど、
「ペロリ。うん、これはおいしいシロップだ!」
と子供たちの舌を満足させられた。やったね。
だけど本当ならこの時点で大人たちは考えておくべきだったんだ。
毎年足りてたシロップが、どうしてこの年だけ足りなくなっちゃってたの? ってさ。
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シロップ祭りの朝は日の出とともにスタートするんだ。
子ネコたちは出来るだけ高い屋根の上に登って、太陽が顔を出すのを今か今かと待ち受ける。
丘の輪郭がはっきりし始めると、みんなおしりをフリフリ。飛びかかる準備は万端さ。
ご先祖ネコ様の塔に一筋でも光がさしたなら、それを合図にスノウ・ハット中の子ネコという子ネコが街をネコダッシュで駆け抜ていくよ! ビュンッ!
子ネコたちが目指すのは 足跡の一つもついていない真っさらな雪。
降りはじめてからその日まで、猫一匹として足を踏み入れていない雪のところ。
そんなの見つけるのは無理だって思うかもしれないね。スノウ・ハットの外から来た人なら。だけどスノウハットの子ネコたちは違う。
実は毎年、あらかじめ場所を作っておくんだ。家の屋根だったり空き地だったり、そういうところにロープを張り巡らせて立ち入り禁止にしちゃう。スノウ・ハットでは『縄張り』って呼んでる。
もちろん家の持ち主ネコや役所ネコさんたちに届けを出すよ? 勝手にやるのはよくないからね。それに大人ネコたちはちゃんと分かってくれてる。そりゃあそうだろう、大人ネコだってちょっと前までは子ネコだったんだから。あははっ。
だから子ネコたちはスタートの日差しとともにそこを目指す。普段は忘れっぽいネコでも、縄張りの地図は頭から離れない。そういうものさ。
そうそう、シロップ祭りに参加するのは何もスノウ・ハットに住んでる子ネコたちだけじゃあない。よその国から来た子ネコたちだって、そりゃあ参加したくなるよね。
え? 縄張りを知らないんじゃないかって?
そうだね。そこが困ったところ。
昔はいたんだ。祭りが終わるまでに 食べられる雪の場所を見つけられなくて泣いちゃう子ネコが。せっかくシロップを握りしめているのに、しょっぱいかき氷しか作れないなんて、そんなの悲しい。誰だってそうでしょう?
それに、楽しい楽しいお祭りの日に子ネコを泣かせるだなんて、ご先祖ネコ様の子孫ネコとしては放っておけないよ。
だからスノウ・ハットのネコたちはシロップ祭り当日の朝、どこに行けばいいのか分からない子ネコを見ると、
「ほら、あのお兄ちゃんネコについてお行き! おーい、茶色いマイケルちゃん! この子も一緒に連れて行っておくれ!」
「もちろんさ! さぁ、おいしい かき氷 はこっちだよ、ついておいで!」
ってどこでも誰でも声をかける。たったの一匹だって悲しませたりはしないんだから。
子ネコたちはパァッと瞳を輝かせて、ただただ新しい雪を求めて走ればいいんだ。
「ありがとう!」
そういう声があちこちで響くのさ。
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