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乾いた風に、毛がなびかない。
毛づくろいしようにも、唾液が出ない。
お気に入りの真っ白だったパーカーは薄汚れて、それを着る茶色いマイケルもげっそりやせ細っていた。
「ね、ねぇ。あとどれくらいで次の街につくのかな?」
生木をひっかくような情けない声に、
「も、もうすぐ、着くはず……」
ひょろひょろの高い声で答えたのは灼熱のマイケル。ボロボロの服は元からだけど……毛はもうちょっと赤く燃えてたと思うんだけどな。今はとっても弱火だ。
「もうすぐって、昨日からさ、そればっかり……言ってない? ボク、そろそろ何か飲まないと、動けなくなっちゃいそうなんだけど」
「もうすぐは、もうすぐだろうが。一日や二日……水を、抜いたところで、死にや……せん。せいぜい、脱水症状を起こすくらい、だ」
「こんなとこでさ、倒れたらさ、助からない、んじゃ、ないかな」
「……死にや、せん。……たぶん」
「……」
「……」
すん、と黙りこくった2匹だったけど、ピュウと風が吹いたのを合図に、火花が散った。
「キミに案内を頼んだのがまちがいだったよ! どうして地図も持ってないの!? 方位磁石すら持たずに来てるなんて信じらんない! それでよく今まで旅してこられたね! ほんとはただ迷ってただけじゃないの!?」
「ええいやかましい! 付いてくるといったのはお前の方だろうがっ! ワシにはワシの旅の仕方があるんだそれにケチをつけるな! だいたいお前こそなんで何も持って来とらんのだ! 旅だぞ!? 普通水を入れるボトルの一本くらいは持ってくるだろう! 手ぶらで走ってくるヤツがあるか!」
「なんだいなんだい! それでいいって言ったのはキミの方だろう! ボクが街の外に出てから荷物を忘れちゃったことに気づいた時、キミ何て言ったか覚えてないの? 『無鉄砲こそ冒険の一歩よ』なんてわけわかんないこと言ってたじゃない!」
「わけわかんないとはなんだ! 本当のことではないか!」
「本当かどうかはどうでもいいんだよ! キミが言ったかどうかさ!」
「ああ言った言った、言いましたぁ! ほれこれでいいか? 謝りましょうかぁ!?」
「フンだ! ちっとも謝る気なんてないじゃないか!」
「なにおぅ!」
「なんだよぅ!」
ぐぎぎっ、と視線を合わせてにらみ合った2匹の子ネコ。しかし同時に、その場に倒れちゃった。灼熱のマイケルの手にしていたキャスター付きのスーツケースも、後を追うようにバタンと横倒しになった。
固くひび割れた大地にうすい砂埃が舞う。2匹は弱々しくケッホケホと咳をして、
「こころが、ささくれだつ」
「おなか、すいた」
大声で怒鳴り合ったことをひどく後悔した。
茶色いマイケルと灼熱のマイケルがスノウ・ハットを出てから一週間が経とうとしていた。
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