5. あわあわの世界 (148)いつかどこかのお茶会で。 *** 大切ななにかを失うと、それを取り戻せと心が意識に働きかける。 だけど、もう取り戻せはしないんだと悟ったとき、心のひびは身体を伝って、意識を蝕んでいく。静かに喪われてゆく。 誰かを大事に思うネコは、誰かに大事にされるネコでもある... 2021.11.13 5. あわあわの世界
5. あわあわの世界 (147)13:******** ―******* 茶色いマイケルは、夜明け前の空がひそかに光を蓄えはじめたところを、ぼんやりと眺めていた。まばらに立った白樺の木が、地面にうっすらと縞模様の影を落としている。 どうして秘密基地にいるんだっけ。 そこに考えが及んだとき、... 2021.11.12 5. あわあわの世界
5. あわあわの世界 (146)12-4:つめたい声 *** 白のユキヒョウの背にまたがって、茶色いマイケルは『鉢植えの大森林』の中を駆けていた。 暗闇の中、ふかふかの背に抱きついてじっと目を凝らしていると、ぼんやり森の様子が浮かびあがって見える。顔にかかる白い息が、ここは故郷へと続く道な... 2021.11.11 5. あわあわの世界
5. あわあわの世界 (145)12-3:不安の欠片 *** どうして自分だけが残っているのか。 その理由を求めるように、茶色は書斎にひろがる星々の間に視線を彷徨わせていた。すり寄ったマークィーが、1匹になってしまった子ネコの匂いを不思議そうに嗅いでいる。答えを知っていそうなボクが何も言わ... 2021.11.10 5. あわあわの世界
5. あわあわの世界 (144)12-2:別れのしっぽクロス *** ボクは世界に滅びを仕掛けた。 責められる覚悟はしていたけれど、こうして面と向かって言われるとつらいものがある。そう、この子ネコたちにとってボクは、彼らを追い立てるようにここまで導いた、とても悪いネコなんだ。 口を開いたのはボク... 2021.11.09 5. あわあわの世界
5. あわあわの世界 (143)12-1:時別れの書斎 *** 板チョコみたいな扉を開けて、ボクは茶色いマイケルたちを部屋に招き入れた。 『時別れの書斎』を見た彼らの目はキラキラしていたに違いない。だってここは星々の中にある部屋なんだから。 まず子ネコたちの目に飛び込んできたのは真正面の渦... 2021.11.06 5. あわあわの世界
5. あわあわの世界 (142)11-11:恩赦の光 *** 聖秤フェリスががしゃりと揺れた。 左の皿で寝ていた白猫が頭をもたげて起き上がり、すっと背を伸ばす。茶色の頭を丸呑みできそうな大きなあくびをひとつして、右の皿に目をやった。 そこでは小さな猫が2匹、互いのしっぽを追いかけ回してい... 2021.11.05 5. あわあわの世界
5. あわあわの世界 (141)11-10:それでもね *** 深く、雪の中に沈み込み、それからどれくらい経ったのかは分からない。 赤ちゃんネコみたいに丸めた身体は、上を向いたまま静かに凍っていった。 けれど、頭の中ではもう次のレースが始まっていたんだ。 まず、広場に大きな穴が開いたらす... 2021.11.04 5. あわあわの世界
5. あわあわの世界 (140)11-9:雪の中へ *** けぶる雪景色がぐらりと揺らぎ、茶色いマイケルは雪の上におしりをついた。 左手側、顔の近くなったキャティは、つかんでいた左足から手を離し、カリカリと傷口を爪で撫でながら言う。 一度逃げたヤツは何度も逃げるよ。 言い返す余地はあ... 2021.11.03 5. あわあわの世界
5. あわあわの世界 (139)11-8:ちっちゃい子ネコ *** 突如として飛び出した左手。傷をさらにえぐる爪の痛み。雪中から見上げる真赤な眼球。焼け爛れて肌の垂れ下がった顔。どれも震える理由には違いない。だけど怖気の元はそこじゃなかった。 このネコは、あの道から落ちたはず。なのになんで。そも... 2021.11.02 5. あわあわの世界