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茶色いマイケルは目をつむって、耳を澄ませた。
スノウ・ハットの中心から明るい笑い声が聞こえる。
だけど迷路街から聞こえてくるのは誰かの いびき とお腹の鳴る音だけだった。
もしかして!
パチンと大きな目を見開いた。
「シロップが買えなかったのかも!」
街の中心にあるシロップ屋さんは たくさんのシロップを仕入れることができたけど、迷路街のシロップ屋さんにまでは行き届かなかったかもしれない。そう思ったんだ。
お店に売ってないんじゃ、子ネコたちはシロップが手に入らないよね。だからせっかくのお祭りだっていうのに家で寝ているしかなくなっちゃう。
かき氷で冷えちゃっていた体が カッ と熱くなった。
「でも待って。迷路街でシロップが手に入らないのなら、ボクん家の近くのシロップ屋さんまで買いにくればいいのに」
そう口に出したとき、茶色いマイケルは「あっ」と言葉をこぼしたよ。
「迷路街の子ネコたちも、親ネコから言われているのかも」
思い出したんだ。お母さんネコや チルたちのお母さんネコが 茶色いマイケルに言ったことをね。
「きっとそうだ。中心の方には行っちゃダメだって言われているんだ」
茶色いマイケルは 雪と氷の祭典の1日目を思い出す。
氷の大噴水広場から 氷の地下道をくぐって 氷の神殿へと続く道に、迷路街にいるようなサビネコたちの姿はなかった。普通のサビネコはいたよ? でも汚れた服を着て、傷を負ったサビネコの姿は見ていない。
ずば抜けて記憶力がいいわけではないけれど、昨日のことくらいは覚えている。そう、確かにいなかった。
「でもこんなに楽しいお祭りなのにどうしてみんな……」
まだまだ子ネコな茶色いマイケルだったけど、大人ネコたちのあいだに複雑な事情がありそうだということは察していた。いいや、そうであって欲しいと思っていたのかもしれない。
だって複雑な事情でもなけりゃ、お祭りに参加できない子ネコを放っておくはずがないんだ!
心の中でそう叫んだ瞬間、茶色いマイケルの瞳に光がさした。
冬の薄い空に浮かぶ ふわふわの雪雲を割って、鋭い太陽の日差しが 素晴らしいアイデアを運んできたんだ。
「そうだ! 子ネコたちさ!」
大人ネコたちが お互いにどうして避けたがるのかはよく分からなかったけど、子ネコたち!
「子ネコたちだけなら何とか出来るかもしれない!」
見当もつかない複雑な事情をいくら考えたって、どうすることもできない。
だけど、茶色いマイケルが何とかしたいのは それとは違うことなんだ。
「そういう事ならカンタンさ!」
ニッ と ヒゲが持ち上がる。耳がピクピクピクっと3回跳ねる。シッポを2回 大きくブンブン振り回した。
茶色いマイケルは大急ぎでリュックにシロップを仕舞い込み、まだまだたくさん残ってる屋上の雪に背を向けた。
「ちょっとだけ待っててね、すぐに戻ってくるからさ!」
食べ残したかき氷に しっぽの毛を引かれる思いではあったけど、それでも心は前を向いていたよ。
だってさ、お祭りは楽しいものでしょう?
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