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「くっ、すまんっ!」
「よしきたっ! 果実っ」
「はいはぁいっ」
左手側には岩壁、右手側には崖。
第4ポイントは岩壁沿いの細い道の途中にあった。
欠片のある場所はほぼ分かっていて、あとはそこへたどり着くだけ、という時に塵を伴ったつむじ風に襲われたんだ。
つむじ風って語感はかわいらしいけど要は小規模な竜巻だ。こんな足場の心もとないところで遭遇すれば、それはそれは恐ろしいものだよ。高速回転する巨大な電動ヤスリを押し当てられてる気分さ。必死でへばりついていないとチュンッて高い音を立てて弾き飛ばされちゃいそう。
現に、目をやられないよう着けていた紫外線ゴーグルを虚空のマイケルが弾き飛ばされちゃった。ネコの毛は柔らかいから締め付けたゴムがすっぽ抜けることがあるんだ。そのせいで渦巻く塵が目に入ったらしくて、
「目を開けていられないっ!」
と訴え足を止めた。
「ならばここで耐え凌ぐぞっ。この程度の渦、壁にぶち当たってしまえばそう長くはもつまいっ!」
と灼熱のマイケルは『しっぽアウトリガー』の姿勢で構えた。
これは吸着性のあるクライミングネコグローブでべたっと壁にへばりつき、しっぽで足場を押すように支えることで重心を安定させる姿勢のことさ。強風訓練を思い出すね。さらに、茶色いマイケルたちのゴーグルもいつ弾き飛ばされるか分からなかったから、頭を岩壁に押し付けて防いだ。
虚空、果実、茶色、灼熱の順で岩壁にへばりついた4匹のマイケル。
ただ、全員でザイルを繋ぐのはまだ早かったかもしれない。
あとは耐えるだけだというそんな中、ふと誰かが飛ばされるイメージが茶色いマイケルの頭の中に浮かんだ。繋がった他のザイル(ロープ)を次々と巻き添えにして、結局4匹ともが岩壁から引き剥がされてしまうっていうイメージさ。
あっまずい。
予感は的中。
カチリとカラビナの外れる音がして、虚空のマイケルがいつものように謝ったんだ。目を開けたのが一息遅かったね。
だけど今回は灼熱のマイケルと果実のマイケルが前もって手を打ってくれていた。
不用意に手を離してしまった虚空のマイケルに、果実のマイケルが飛びかかりガッチリと捕まえる。2匹とも壁から引き剥がされてつむじ風にぐいっと持っていかれそうになった。でも大丈夫、まだ1匹とはザイルが繋がっているからね。
茶色いマイケルは姿勢をさらに低くして、支えにしているしっぽに力を入れたよ。
「いいぞ茶色!」
ずん、と灼熱のマイケルの手で、背中に強い力が加えられた。
灼熱のマイケルは茶色いマイケルを壁に押し付けることで、ハーケンの代わりとしたんだ。
ハーケンっていうのは岩壁を登る途中、岩と岩の隙間に打ちつける金属杭のことだよ。この杭を打つことで中間支点を作るんだ。中間支点であるハーケンにザイルを通しておけば、もし崖から落ちちゃったとしても、ザイルがびーんって引っかかるから滑落を防げる。安心だね。
今回は茶色いマイケルを中間支点として、飛ばされる2匹のマイケルを押しとどめたってわけ。ま、こんなの灼熱の腕力がなけりゃ出来ないと思うけどさ。
つむじ風は間もなく止んだ。それと共にザイルを引っ張る力が弱まり、2匹は崖側にぶら下がっていた。びたんと音がしたからちょっと強くぶつかっちゃったのかも。
「2匹とも大丈夫!?」
「平気平気ぃ。それよりもこれこれぇ」
崖の上の2匹は顔を見合わせ、それから覗き込むように崖下に目を向けた。
「やっぱりあったぁ」
「よくやった虚空!」
「まぁ、気絶してるけどさぁ」
虚空のマイケルが打ちつけられた岩のすぐ隣に、神世界鏡の欠片が突き刺さっていたみたい。2匹の声の弾むこと弾むこと。大はしゃぎさ。
もうちょっとだけでも、白目をむいている虚空のマイケルの心配をしてあげたほうがいいんじゃないかな。
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