***
それでも、氷の大噴水広場につく頃には、いくらか穏やかな気分になっていた。
通りを歩く親子連れネコたちの姿がちらほらと見られたからだ。
お父さんネコとお母さんネコ、両手をつながれた子ネコがぴょんぴょん飛び跳ねて、両親ネコを困らせている。
街路樹の脇にあるベンチには、大きなおなかを抱えたお母さんネコが座っていて、すぐ隣にはお父さんネコが赤ちゃんネコを抱いて立っている。
5つ子のチルたちみたいに呆然としている子ネコもいるんだけど、お父さんネコの買ってきたアイスクリームを手にすると、ペロペロ舐めて機嫌を直していたみたい。カリカリチップ入りのアイスクリームだから当然だね。
「き゛ょうがら 雪゛っで いっでだのに゛ぃ゛ぃ゛!!」
大きな声にびっくりして振り向いてみると、上から下まで真っ白な子ネコが お母さんネコのエプロンにしがみついていた。この辺では見たことがないけれど、きっとスノウ・ハットに住む子ネコだ。
どうして分かったのかって? それはね、スノウ・ハットのネコたちはみんなみんな真っ白な毛色をしているからなんだ。
真っ白と言っても全部じゃないよ。茶色とか黒とかグレーとか、いろいろに混じった毛の中の白い部分。そこが真っ白なんだ。暗いところでもはっきり見えるくらいの真っ白さ。
大きな声で泣いている子ネコに、茶色いマイケルは近づいていった。
なんて声をかけたらいいんだろう。チルたちみたいに落ち着いてくれればいいな。
子ネコのヒゲも耳も泣くことに夢中で、近づくネコがいることには気づいていないみたい。びっくりさせないようにしなきゃ。
「ねぇキミ」
茶色いマイケルがそっと口を開いた。
だけどそのとき、泣きじゃくっていた子ネコの声がピタリとやんだ。
お母さんネコが口を塞いだのかな? なんて思ったけど、そうじゃないみたい。子ネコは自分で口を閉じていた。震えるアゴをぎゅっと絞るようにして堪えていたんだ。
「ほら、お父さんネコたち 来たよ?」
立派なグレーの毛並みをしたお父さんネコが歩いて来る。その手の中にはグレーの子ネコが抱かれていたよ。子ネコの手足は真っ白なソックスをはいていた。
お父さんネコがグレーの子ネコに鼻を近づけて何かをつぶやくと、
「にーちゃ」
とグレーの子ネコがとっても高い声を出した。何がおかしいのかは分からないけど、キャッキャと笑っている。
茶色いマイケルは、その家族がどんな話をするのかを聞く前に、その場を離れた。
急いでいたわけじゃないけれど、周りの景色はちょっとだけ速く流れていたかな。
教会の鐘が鳴る。
冷たい空気がのどを刺す。
気づけば 氷の大噴水広場を見渡せるところに立っていた。
そこで茶色いマイケルは、あの日のお母さんネコのことを思い出す。
「……雪、降らないかなぁ」
こげ茶色の 深い瞳が、向こう側に見える 丘の上のお墓に 吸い込まれていく。
コメント投稿