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スンスン、スンスン。
おもむろに匂いを嗅ぎだした燃える炎の子ネコ。顔の向きを変え、角度を変え、臭いの濃い場所を探っているみたいだ。
「ふむ、まずは此奴だな」
つぶやきというには堂々とした声は、もはや宣言と言っていい。
「ではな。悪いがお前の家に遊びに行く話は無しだ。森の奥も興味があるが、ここも面白そうだ。なにせスノウ・ハット中の子ネコの秘密が隠されているのだろう? ワシの匂いを擦りつけてやる。仰天するだろうなぁ……クックク」
顔をぐにゃりと曲げて笑う。それはどことなくホロウ・フクロウの印象と重なって見えた。
いったい何が起こっているのだろう。
引き留めるでもなく、やめさせるでもなく、思いつくのは「何」と「どうして」ばかり。だから口を開いても、
「えっと……え、何? どうして? え? ねぇ」
と、狼狽えるくらいしかできなかった。燃える炎の子ネコはフンと、つまらなさそうに鼻を鳴らした。
「お前は本当に情けない奴だ」
毛玉を吐くように言い捨てる。
「森へ入るのを怖がって、いや、その手前の林すら立ち入りたがらなかった。やれ臭いがどうだ、成ネコたちがどうだと、心底あきれる。言いたいことも口に出そうとせず、ワシに言わせたな。親切で言ってやったわけではないぞ。物欲しそうな顔が醜悪で、嘔吐物を吹きかけられたように不快だったから先に言ってやったまでだ。すると今度はどうだ、帰ろうとしたワシに家に来い? お前の母ネコにワシの話を聞かせろだと? 図々しいにもほどがある。まぁワシも案内を頼んだ手前我慢をしていたが、いい加減胸糞が悪くなった。お前のような甘ったれた糞ネコを見ているのはもううんざりだ」
「え……そ、そん……」
「あー、いいいい。しゃべるな、耳が腐る。ワシはワシで勝手にやるから帰っていいぞ。せめて気晴らしくらい一匹でさせてくれ。子ネコをいじめて遊ぶ趣味はなかったのだが、気が変わった。どうせスノウ・ハットの子ネコはお前みたいな糞ばかりなのだろう? だったら糞掃除と思えば面白いかもしれん。ではな。情報だけは役に立ったよ。もう二度と会わないことを祈る」
くるりと反転し、左右に揺れることなくまっすぐな姿勢で歩いて行く。
振り返る気配をちっとも見せず、下草を踏みにじりながら秘密基地の匂いのする方へと進んでいったんだ。
茶色いマイケルはぐわんぐわんと揺れる頭の中で、一生懸命考えようとしたよ。
だけどわからない。落ち着いたら予想は出来るのかもしれない。でも、燃える炎の子ネコがどうしてあんなこと言ったのかなんてさ、結局あのネコに直接聞いてみるしかないんだよね。
なのにその後ろ姿が見えなくなるまでずっと、答えのない問いを頭の中で繰り返すだけだったんだ。
その時、風に運ばれてきたのは、チルたちの匂いだった。
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