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「いやぁ助かりましたよ、早めに目が覚めたのでモーニングカフィを飲みながら『さぁいくぞ』と気合をいれたところで、あの物凄い音がしたでしょう? しかも、パジャマを脱いでいると火の手が迫っているという知らせですよ、慌てた慌てた! 道すがら、あれがスラブの衝突で、レース再会の合図だったという話までは聞くことが出来たのですが、そしたらアレ! あの化け物どもが叫びながら追いかけてくるじゃありませんか! 私、別段運動が苦手というわけではないのですが、いかんせん相手は3匹の得体のしれない化け物でしからね、素直に『お助け下さい』と神さまにお願いしたのですが『これはネコがどうにかする問題だから手出しは出来ないよ』なんて言われてしまいまして……ヒドイと思いませんか! それはもちろん私もあの方々の力をあてにし過ぎていたというのはありますが、情報くらいはくれてもバチ当たらないはず……というかあの方々が神さまなのですから元から当たるはずもないでしょう! まったく神さまというものは信じるものではありませんね! そういうわけで重ねてお礼を言わせてください本当に助かりました! どうやったのかは分かりませんが、あの化け物どもをああも美しい泡に変えてしまうとは! その身のこなしの美しさ! 声! 是非その面の下を伺いたいものですね。いやいや、お面も実に素晴らしい! さぞ名のある名工ネコによって彫られたものでしょうな! 私こう見えて芸術全般をかじっておりまして」
「おいマルティン、あまり動くんじゃ」
「おーやおやこれはこれはマダム・キャティ! こんなところにいらっしゃったとは! 広場では色々と教えていただき本当にありがとうございました。おかげさまでこうしてこんなところまでたどり着くことができましたよ! 事前に芯の情報を知ることが出来たおかげで大空の神さまたちとも知り合うことが出来ましたし今後の戦略も……あらあらあら~? チームマイケル! 君たちまでここにいるとは。また恥ずかしいところを見られてしまったね、はっはっは! ということはまたまた君たちが私を助けてくれたという事でもあるのかな? ここは命の恩猫たちの集会場じゃあないか。まさか恩を返済してくれなんて打ち合わせしているわけじゃあ……いやいや冗談冗談! ちょっと苦すぎるジョークだったかな。とはいえ、少しくらいは恩を返しておかないと私ばかりが得をしてしまうねぇ」
「い、いや、それはいいから」
「や、や、や。そう言わないで欲しい茶色くん。そうだなぁ、本当は高級プディングでもごちそうしたいところなんだけれども、それはまた今度にしよう。今は本当に役に立つ情報をキミたちにあげようじゃないか。さっきも言ったけれどね、神さまたちを信用しすぎるのはやめておいた方がいいよ。何やら私たちネコとは違って、レースとは別のところでこそこそと画策していらっしゃるようなんだ。直接私たちに関係ある事ではないのだが、ほら、君たちの周りにも風の神さまがちょろちょろと飛んでいただろう? きっとアレも何か企んで」
『しつれーなネコだなー。オレは何も企んでなんかねーっつーの』
「ひ、ひぃぃぃ! 風の神! いつの間に!」
『さっきからいたぞー』
「は、ハメられたっ!」
あっ! と叫んだ時にはもうマルティンさんが、路地の出口にいた風ネコさまから逃げ出して、大通りの手前にいる茶色いマイケルたちの方へと走り出していた。「きさま何やって」「ちょっとあんたっ!」「だめだくるな!」「だめよ動いちゃ!」「来ちゃダメだよ!」「そっちはだめだってばぁ!」『やべーやつだなー』とみんなが慌てて止めようとしたんだけど、思った以上に素早く路地に走り込んできた。
「まってマルティンさん!」
と茶色いマイケルが手を広げてようやく足を止めた、と思ったんだけど、
「ば、化け物だぁぁああ!」
大通りに溢れかえる大量の『ネコ・グロテスク』を目にしてしまい、恐怖で顔の彫りが深くなった。マルティンさんはその場でばったばたと暴れるだけ暴れた挙句リーディアさんのところへと引き返し、さらに、
「こ、こっちからも来てるぅぅぅ!」
その向こうにいたらしい新手のネコ・グロテスクを引き込んで逃げて行った。
それは呆気にとられるような、見ている方が恥ずかしくなるほどの醜態だったけれど、呆けていられる余裕は無くなった。
「茶色くん!」
「う、うしろうしろぉ!」
指をさされて振り向いてみれば……。
『ね” ごぉぉぉ……』
ネコ・グロテスクたちの顔が全て路地の中を向いていた。そして一斉に、
『『『『ね”ぇぇごぉぉおお……!!!』』』』
と襲い掛かってきたんだ!
「うそ、速っ!!」
「逃げて逃げて逃げてぇ!」
大通りをゆっくりと歩いていた時とはうってかわって速い。肩を怒らせて歩いて来るチンピラネコを1.5倍速にしたくらいの速さで路地になだれ込んでくるんだ! その身体は意思とは無関係にびくんびくんと生々しく痙攣している。心が凍りついてしまいそうになるよ。そこへキャティが、
「ちっ、仕方ないねぇ。おいトム! チム! こっちで壁になんな!」
と上に向かって怒鳴った。すると、
「フゥゥゥルルルァッフー↑! 待ってましたと言いたいところだけどよォォォ!」
「おーおーおー! ちーっとばかり場所が悪ぃいんじゃねぇのかァ!?」
と汚れた飛行服に身を包んだトムとチムが上から降ってきた。2匹は、慌てて下がった茶色いマイケルたちとネコ・グロテスクとの間に立つ。
「余計な邪魔が入っちまったんだよ! 黙って片付けてな!」
「ひゃーおっかねぇェェ↑! ま、いいけど」
「んで、キャティ、コイツら使っていいの?」
「ああ。いいかげん潰れちまうかもしれないから、その辺にいる”グロ”一掃して、起き上がれるようにしてやんな。アタシぁさっき”球”ァ投げこんじまったからね。アンタらに預けた方が言う事きくだろう」
するとトムとチムは顔を見合わせて、「「ひっでぇえ!!」」と笑っていた。いや、笑っていただけじゃない。迫ってくるネコ・グロテスクたちに、ポンポンポン、と軽く触れては次々と泡にしていたんだ! 「もしかして触れても平気ないんじゃない?」って思うくらい平然と触れている。
2匹はその声の調子のまま、
「おーいお前ら今助けてやっからなー!」
「そのあとはしっかり働けよー?」
と言って路地になだれ込んできていたネコ・グロテスクの波を平然と押し返していった。そして、
「「っしゃあ! 起きやがれヤローどもぉ! これから化け物どもを狩って狩って狩って狩って狩りまくるぞォォォ!」」
と拳を高く掲げる。場に波が立った。キャティに『黒靄球』を当てられたネコたちが一斉に起き上がったんだ。
「「「しゃあああああ!」」」
無駄に士気が高い。
ネコたちはすぐさまトムとチムの周りに集まり、ネコ・グロテスクたちに触れてはゲロゲロと吐き、触れては吐きを繰り返していた。
「ヒッヒ。にわか仕込みじゃあさすがに厳しいか。でもいい駒にはなったみたいだねぇ」
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