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空に雲がかかったらしく、部屋の中が暗くなる。もう夜も遅くて本当ならみんな眠ってる時間なんだ。
カラバさんは手元の調光つまみをしぼって、部屋の明かりを少しだけ強くした。どのネコも目を細めずに済むくらいゆっくりとね。
それから灼熱のマイケルを見て、茶色いマイケルを見て、うなづいた。
「通常、大空の国へと渡るには『大空のマタタビ』5枚と『時間』があればいい。これはお話した通りです」
今度は茶色いマイケルがうなづく。
「しかしながら稀に、これら以外の代償を支払っているネコがいるのです。しかも自覚なしに」
「それは奪われたって言わないぃ?」
「そうですね。奪われた、というのが正しいのかもしれませんが、しかしそもそも『空と大地のつなぎ目の部屋』という”奇跡”について、私たちの知っていることはあまりにも少ない。距離を無視して空と大地とを結びつけるために、元々必要な代償だとしたら」
「あぁ……奪ってるっていうのは一方的な言い方だねぇ」
カラバさんは両手を開いて胸の前で合わせ、少しずらしてゆっくりと組んだ。スローモーションみたいな動きにネコの目が釘付けになる。
「代償の発生する条件について、私たちは考察を重ねました。そして現在は一つの仮説を元に運用しているのです」
『願いの重さ』とカラバさんは言った。
「『空と大地のつなぎ目の部屋』に入ったネコは、まず願いの重さを量られます。それから肉体を運ぶために『大空のマタタビ』を支払い、『時間』を対価に行先までの距離をゼロにするのです。そして最後に、願いの重さに応じた代償を、支払わされる」
ぶるりと背中が震え、しっぽの毛が逆立つ。
「じ、じゃあぁ、宅配便みたいなものだねぇ。荷物と距離と重さによって、支払うものが変わってくるんならさぁ」
「ふむ。お前らしくて分かりやすいな」
「あぁ、バカにしてるぅ。バカにしたニュアンスが含まれてるぅ」
2匹がわざと明るく振舞ってるのは、なんとなく伝わってきたよ。
「だとすればオイラの『願い』の代償は何なのぉ? なぁんにも説明は受けてないけどぉ……別に魂が抜き取られるわけじゃぁないんでしょぉ?」
「端的に言って、果実のマイケルさんの『願い』の代償はございません」
「いらないのぉ?」
「はい、不要です。茶色いマイケルさんも、灼熱のマイケルさんもご不要です。不要というよりも『大空のマタタビ』5枚に含まれていると言った方がいいでしょう。通常、必要はないのですよ。『大空の国を観光したい』『手に入れたい品物がある』『会いたいネコがいる』などなど、大抵のことはその身一つで叶えてしまえるものですから」
説明を省いたのはそれが理由なんだって。
「なるほどぉ、なんか見えてきたねぇ。自分一匹で叶えられることまではセーフだけどぉ、身に余る願いにはぁそれに応じた代償が必要になるってことかぁ」
言葉が途切れると同時に空気が重くなった。みんなが誰を意識していたのかは分かるし、ピッケだってそれを強く感じちゃったはずだよね。
「そして」
今日初めて聞いたカラバさんの低い声。
「願いの代償は選べません。何を支払わされるのか、その法則は分かっておりません。楽しみにとっておいたおやつが代償となる場合もあれば、身体の毛すべてを毟られる場合もあり、しかも対象は本人に限らないことも。先ほど果実のマイケルさんがおっしゃられたように、魂……命そのものを奪われるということもあるのです」
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