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ホーウ、ホーウ
あざ笑うように悠々と翼をはためかせ、辺りを一望できる樹のてっぺんに片脚で降り立った、ホロウ・フクロウ。
燃える炎の子ネコをつかむもう片方の脚を、器用に持ち上げていた。
木々のすき間を埋めるほどの巨体。
遠巻きに見ていた他のフクロウたちが一斉に集まってきて、びゅうびゅうと風が鳴る。一面が真っ暗闇に沈む。
眼。
暗闇に穴をあけたような暗い瞳が一対、二対、三対、四対……数え切れないくらい、茶色いマイケルに向けられている。
「ああ……ああ……」
一歩後ずさりして、背中から襲われやしないかを確認し、もう一歩下がってよろけると、今度は反対側を慌てて確認する。どこにも逃げ場がないのだと気付いたとき、心底すくみあがって足がガクガク震えた。
つかまっちゃった……あの、子ネコが……。
開きっぱなしの口からは、喘ぐような声しか出てこなかったけれど、どうにか意識はあった。燃える炎の子ネコが無事なのか、目をぱっちりと開いて確かめる。
だめだ。
わずかな光さえあれば暗闇だって見通せるネコの目だけど、この森では力の半分も使えなかったんだ。
なぜって? 臭いさ。
刺激臭が目に涙を浮かばせてくるから、森の色と、ホロウ・フクロウの色と、燃える炎の子ネコの色とが混ざり合うんだ。もともとネコは色を見分ける力が弱いからなおさらだよ。
茶色いマイケルはぼやける視界の中に、『くらぁい くらぁい おおきな もり』に描かれていたあのページを見たような気がした。
――4匹の子ネコを取り巻く暗闇と、そこに浮かぶ無数の目。
だとしたらその先は……?
考えた瞬間、痺れるような震えが全身を駆けめぐる。
お母さんネコ……。
何日も寝られず、すっかり毛の細ったお母さんネコが、必死に声をあげながら茶色いマイケルを探すんだけど、それでもやっぱりホロウ・フクロウの林より先には行こうとしない。そんな様子がありありと浮かんだんだ。そこへ。
ホーウ、ホーウ
太くて芯のある鳴き声が、嗤うようにこだました。
ホーウ、ホーウ ホーウ、ホーウ……
周りのフクロウたちが拍手でもするように後に続く。
ホーウ、ホーウ
ホーウ、ホーウ ホーウ、ホーウ……
ドサッ、とヒザから崩れ落ちた茶色いマイケル。湿った腐葉土の地面が柔らかくなければ骨が折れていたかもしれない。そんなことを考える余裕なんてなかったんだけどさ。
「は、はは、ははは……」
恐ろしい声をかき消したくて声を出していると、笑い声になっていた。
「はは、はは、ははは」
声はだんだんはっきりとしていき、そして。
「はは、は、すごいや……」
絶望しそうだった茶色いマイケルの目に飛び込んできたのは信じられない光景だった。
「カァァアアアアッ!!」
ボンッ、と爆発したような衝撃音。ホロウ・フクロウが空を見上げ、ふらりとしたと思ったらそのまま力なく落下した。
重たい音が足を伝って響いてくる。そこここで他のフクロウたちも、地面に積もった腐葉土の上に軽い音を立てていた。
何が起こったのかって?
「ふぅ。大して手ごたえがなかったな」
木のてっぺんに片足で立っているのは……燃える炎の子ネコ!
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