(53)6-19:ガオー!

***

 ネコソルジャー・デスを囲んでいた視線が茶色いマイケルの両肩に注がれる。

 『氷柱ネコさま』と『霙(みぞれ)ネコさま』。

 2匹のコドコドは300匹近いネコたちから見られていることに気付くと『『みゃー!?』』と脚を滑らせ背中にしがみついた。ぐっさりと爪が刺さる。茶色いマイケルは2匹が登りやすいよう前に屈んでから、引きつった笑顔で尋ねたよ。

「ねぇ、“いろんなのが来てる”ってさ、どんなのが集まって来てるのかな?」

 よいしょよいしょと登る2匹。

『あのねー、服着たネコたちー!』

『それー!』

 話が終わりかけた。

「も、もうちょっと特徴はない!?」

『えー? あとはー……あっ! 爪みたいなの持ってた! ネコの手みたいなの!』

『そー! あとねー、いっぱいいた! みんな白い服ー!』

「爪に、ネコの手に、白い服か……」

 一部のネコたちは白いパーカーを着ている茶色いマイケルをジロジロと見ていた。だけどキャティが「『ネコ救世軍』だろうね」と言うと視線は揃って動く。

「いわゆる狂信ネコ集団さ。アレはとにかく結束が固いんだ。犠牲を厭わないってのが厄介なところだねぇ。それに」

「ヤツらァ放っとくと他のグロちゃんたちぉまとめ上げちまうからなぁぁぁ↑ 前回結構ヤバかったろぉ、なぁチム!」

「ありゃぁヤバかったぜぇぇぇ! 特にネコ兵さん束ねちまいやがったからなぁ! おとり使って逃げるので精一杯だったよなぁ! 面白かったけどぉぉ!」

 うんうんとうなづく。すると、

『『これもいたよー! いっぱい!』』

 コドコドたちが、茶色いマイケルの肩をぴょんと蹴って、ネコソルジャー・デスの上へと降り立った。「案の定か」とつぶやいたのはハチミツさんだ。

『あとねー、神!』

『神が茶色たち探してるー!』

「むっ、ここでか。話の通りなら雲の」

『そーそー! 雲ちゃんたちのところのー……なんだっけ?』

『ちっちゃいのばっかりー! あとねあとねー』

「他にもいるのぉ!?」

『あっ! 3匹の……あれっ!』

『わかった! 3匹の……黒っ!』

『それっ! 黒っ! 雷雲!』

 雷雲。

 その名前が出た瞬間、子ネコたちのしっぽが固まる。

『イジワル雷雲! イジワルきらーい!』

『雷雲きらーい! イジワルイジワル!』

 コドコドたちはネコソルジャー・デスの上でぴょんぴょんと、怒りのジャンプを繰り返した。するとそこへ、

『おい雪ん子よー』

 風ネコさまの声がした。

『大空もそれ知ってんのかー?』

 音を辿って見れば石垣の上にいて、視線を遠くにやり、周囲を見渡しているらしい。声はやけに真剣だった。コドコドたちは『『風ちゃんだー』』と笑ってコロコロ転がりながら、

『大空おじちゃん多分知らなよねー?』

『雷雲がねー、わるいと思うけどー、わかんなーい』

『雷雲こわいもんねー、ガオー!』

『雷雲イジワルだもーん、ガオー!』

 と答えたよ。風ネコさまは『そうかー』と言って肉球をペロペロ舐めていた。茶色いマイケルは代わりに「ありがと」とお礼を言って2匹の頭を撫でた。

「じゃあぁ、急いだほうがぁいいねぇ」

「だな。またネコ・グロテスクが押し寄せてきたら騒がしくなる。追手の神たちはその隙をついてくるだろう」

「ハチミツさんとコハクさんは? どうせならみんな一緒にいかない?」

 ネコソルジャー・デスに触れてからというもの、2匹はどことなく元気がない。それで声をかけたんだけど、

「いや、そうはいかんのだろう」

 返事をしたのは灼熱のマイケルだ。茶色いマイケルは「なんで?」としっぽを傾げた。

「昨日の話、覚えとるよな。アレに出て来た『ピサト』あるいは『ピサトの残り火』。そやつらがこのネコソルジャー・デスに乗せられた兵士ネコというわけだ」

「因縁があるとも言っていたしな」

 虚空のマイケルも分かっていたらしい。果実のマイケルも「やっぱりそうなんだぁ」と言っている。茶色いマイケルは少しうつむいた。

「ったく、お前らホントに子ネコかぁ? 察しが良すぎなんだよ。だがまぁそういうわけだ、間違ってねえ。俺らはネコソルジャー・デスがここにいる以上どうにかしなきゃならん。だからお前らを守ってやれねぇんだが、心配か?」

 ハッ、と鼻で笑う音。

「そっちこそあれだけ手間取っていたのだ、子ネコの手も借りたい状況ではないのか?」

「ンハハッ、言うねぇ灼熱チャン。まぁ、やる気満々のネコたちがこれだけいるんだし、とりあえず手は足りてるかな」

「お! お前らもマタゴンズにぃぃぃぃい↑?」

「歓迎するぜぇぇぇぇえ!」

「「願い下げだ」」

「なんでもいいさ。ネコ救世軍も加わるとなると手が足りないからねぇ。本当は坊やたちにも本物の祭りってやつを見せてやりたかったんだが」

「はいはいキャティはそこまで! マイケルくんたちは気にせずに行ってちょうだい。出来るだけ早く終わらせて、私たちもゴールを目指すから」

 リーディアさんも残るの? と言おうとしたところで茶色いマイケルの耳がピクっと跳ねた。次いで周りのネコたちが一斉に立ち上がる。見れば大通りの奥、町に激突している『超巨大スラブ』の下の方から、すごい数のネコ・グロテスクが迫って来ていたんだ。うらみのこもった唸り声がおんおんと、地鳴りのように聞こえてくる。コドコドたちの言っていたように、白い服の集団も奥の方に見え隠れしていた。さらに、

『おーい、来たみてーだぞー』

 路地の出口側、石垣の影から3つの黒い影が茶色いマイケルたちをうかがっている。はっきりと姿は見えないけれど、すらっとした『獣の器』だ。

「さあ行ってマイケルくんたち! 相手が神さまだからって諦めないでしっかり前に進むのよ!」

 リーディアさんの声で、子ネコたちの目に力が入る。

「そんじゃあまた後でな、灼熱のマイケル!」

「うむ、先にゴールしとるかもしれんがな」

「果実チャンたちもしっかりね! また飯でも食おう!」

 4匹は「また後で!」と成ネコたちに手を振り、昨晩宿泊したコテージの方へと大通りを走ったよ。

 通りに並んだオープンテラスが、もくもくと、息苦しく黒煙を燻らせる。

コメント投稿