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「となると次は、どうやって『大空のマタタビ』を5枚貯めるか、だな」
うん、とうなづきかけた茶色いマイケルだったけど、カラバさんの雰囲気が変わる。ちっとも動いていないのに、目を離せなかったんだ。
「それには及びません。灼熱のマイケルさんは他にもこれと同じマタタビをいくらかお持ちですね?」
白い手の上に乗ったマタタビの葉が、やけに色鮮やかに見えた。灼熱のマイケルが期待のこもった声で返事をし、枚数を告げると、
「まさにこれこそが『大空のマタタビ』なのでございます」
望んでいた答えが返ってきたよ。
「アップル・キャニオンにも『長靴を売ったネコ屋』の系列店がございますので、おそらくそちらからお求め頂いたものかと。品質は最高。乾燥の仕方から察するに良い職人の仕事のようです。保存状態も良好ですしこれならお持ちの2枚と、今しがた預かったこちらの1枚とで、大空の国への許可証1匹分とさせていただけます」
「ぬ、しかし店主よ、その1枚は『大空のマタタビ』の情報分としてではなかったか?」
「そうですね。では、先ほど言葉が足りなかった分のお詫びとしておきましょうか」
灼熱のマイケルは何かいいたそうな顔をしていたよ。でも飲み込んだみたい。「ありがたく受け取っておこう」と軽く頭をさげたんだ。
「じゃあさ、まず灼熱が1匹で行って、『大空のマタタビ』を摘んで戻ってくればいいんだね。薬の分20枚と、もう一回行けるくらい!」
「そうだな。せっかく大空の国への道があるというのだ、戻ってきたら皆で行くというのも一興かもしれん」
「んーでもね、薬が出来たら早くお父さんネコに飲ませてあげたいから……」
ピッケの言葉にドキッとする。茶色いマイケルたちはメロウ・ハートへ来て間もないけれど、ピッケはもう1年近くここにいるんだよ。その間ピッケのお父さんネコはどうしてたんだろう。もしも病気が悪くなってたりしたら……って考えると、勝手に目が開いてきた。
「茶色いマイケルさん、ご心配には及びませんよ。ピッケさんのお父様のご容体は、1年や2年でどうこうなるというものではありません。ただ、お仕事ができずに食べ物などは分けていただく状況ですので、肩身の狭い思いはしておいでです。早く戻ってあげることに越したことはないでしょう」
どんな遠くの出来事でもカラバさんの耳には届いちゃうのかな、すごいや!
「ただ、一つ懸念があるとすれば、それもやはり”時間”でございます。大空の国へ渡るには『大空のマタタビ』の他にも”時間”を支払っていただく必要があるのです」
「時間を、支払う?」
口に出したのは茶色いマイケルだけだったけれど、他の3匹も知らなかったみたい。
「はい。大空の国は遠い場所。その道のりを歩むには本来少なくない時間が必要でございます。その距離をひと息に詰めるとなると、どうしても負荷がかかるのです。負荷と言っても肉体的に傷を負うなどということはありませんが、扉をくぐり、目を開けた時には数日から2、3か月の時が経過しているとお考え下さい」
「それを往復分か。ワシ1匹で行って帰って、何日かなら構わんが、さすがにこんなところで何か月もとなるとピッケだけでなく茶色も心配だな。かといってその時間の長さは店主の一存では決められない、といったところか」
カラバさんはヒゲを揺らしてうなづいたよ。
じゃあしばらくこの街でピッケと過ごすことになるのかな、と茶色いマイケルが思ったところでまた、カラバさんの雰囲気が変わったんだ。
「私としては全員一緒に行かれることをおススメします。なにせ皆さんの旅の目的はすべてそこにあるのですから」
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