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「のう、お前さんたち」
朗らかな声で灼熱のマイケルが話しかけると、100匹近くいるバイクネコたちが振り返った。
ところどころに三毛ネコや黒ネコがいるものの、大抵はサビネコみたい。
黒地にオレンジ、あるいはオレンジに黒。絵の具を散らしたような模様はどこか野性的で、鋭い目つきには鈍い光が宿っている。茶色いマイケルはアゴを引いて唾をのみこんだ。
「ニァンダァ? テメェラァアア!」
口を開くなり金切り声で叫んだのは、オレンジ多めの赤サビネコだった。1匹がいきり立つと周りのサビネコたちも一斉に立ち上がる。何匹かはフラついて地面に転んでいたけどね。
「ここが俺らの縄張りだって分かってんのかァ!? ニァァァァアン!?」
「まぁまぁ、落ち着け貴様ら。ワシは」
「ルセェ! 変なしゃべり方しやがって、声がたけぇんだよこのチビねフォォ!?」
灼熱のマイケルの友好的な声をさえぎって、集団の真ん中から黒色多めのサビネコが勢いよく飛びかかってきた。むき出しの長くて鋭い爪が、燃える炎(弱火)の毛を切り裂いた、と思ったら、白目をむいてその場に崩れ落ちていた。
「まぁまぁ、落ち着け貴様ら。ワシは」
「ナァニしてくれやがったんだクラァ! 変な声でしゃべりやがっフォォ!?」
まだら模様のサビネコが飛び出してきて思いきり右手を振りかぶった。しかしいつ移動したのか灼熱のマイケルの姿がその懐にあった。サビネコは白目をむいてその場に崩れ落ちた。
「まぁまぁ、落ち着け貴様ら。ワシは」
灼熱のマイケルが言葉を切る。しかし今度は誰も飛び出しはしなかった。どのネコも、にこやかな顔をしている灼熱のマイケルと、その足元にうずくまる2匹のサビネコを見比べているみたい。
「ワシは街に行きたいだけなのだ。貴様らに連れて行ってもらおうと思ってな」
それを聞くなりサビネコたちは機敏に動き出したよ。四つ足になって駆けていき、来た時と同じようにバイクにまたがったんだ。エンジン音がドルンと鼻息を荒くする。2匹の子ネコはあっという間に囲まれちゃった。
ぐるぐると低速で円を描き続けるバイクネコたち。その表情には余裕が浮かんでいて、ねっとりと舌なめずりしているサビネコもいる。
「てめぇらぁ、見たことねぇ奴らだなぁ。街に連れてってやってもいいぜぇ」
「えっ、ホント!? いいの!?」
赤サビネコの意外も意外な言葉に、茶色いマイケルはつい声をあげる。だけど返ってきたのはニタつく笑みと、
「ああぁ、俺らのパシリとして一生こき使ってやるよぉ」
という、冗談にしては悪質な言葉だった。周りのネコたちがニャハハと笑い声を上げ……ようとしたんだけど、息を詰まらせた。灼熱のマイケルが、強火になっていたんだ。ごあごあになっていた毛がぶわりと膨らんで見えた。
「一台一台、バイクを潰して回ってもいいがなぁ」
キッ、とにらみつけると数台がよろけて、後ろに座っていた何匹かのネコが落っこちちゃった。おいて行かれないように急いで飛び乗るネコたちの様子を眺めていた灼熱のマイケルは、
「とはいえワシも急いでおる。そこで提案なのだが、取引をしようじゃないか」
と、急に態度を柔らかくしたんだ。舞っていた砂埃までが、やる気をなくして地面に落ちたように思えた。これにはサビネコたちも拍子抜けしたようで、
「取引?」
と声を荒げるのを忘れていたよ。
「なに、単純な交換だ。これをやる。だからワシを街まで乗せていけ」
そう言うと灼熱のマイケルは、左手で茶色いマイケルの首根っこをつまみあげたんだ。
「え」
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