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『……何をしたぁ』
『雷蛇』を消しとばされた雷雲ネコさまの声はぐつぐつと煮えたぎっていた。だけど茶色いマイケルたちは取り合わず、
「よし、これで動けるぞ! 散開するんだ!」
「「ニャー!」」
とそれぞれに『風の獣』を操って雷雲ネコさまとの距離を詰めた。命がかかっていたからか、さっきまで弱音を吐いていた果実のマイケルもすでに風の獣を自分の身体のように操っていたよ。芯がとけこんでいく感覚がわかったんだろう。そこへ、
『こたえろぉ……!』
と雷雲ネコさまが吼えた。脳を揺らすほどの咆哮とともに雷蛇が100匹以上現れる。
それが身じろぎする間もなくたち消えた。
散り散りの糸くずになって消えた。さらには『白雷の矢』も『雷撃』でさえも、子ネコの目でとらえた時には霧散していたんだ。
――雷が静電気なのは知っていた。
雲の中にある氷の粒がこすれ合って生まれた静電気、それが雷の元。
だけど、と虚空のマイケルはこう言った。
「その静電気が大きな稲妻となるには、まず電気の通り道を作る必要がある。それが『放電経路』だ」
ってね。風ネコさまは知ってか知らずかこれを利用していると、虚空のマイケルは考えていたよ。
「無茶苦茶なことだが、放電経路が出来る前に、それを捻じ曲げているようだ。ならば俺たちもそれを応用させてもらおう。ただし」
ネコの反応速度じゃ全部の雷になんて対応できない。だから、雷の発生自体を止めようと考えた。
まず風の獣に雪をまとわせる。その上で灼熱のマイケルが正面から突撃してやられたふりをした。さらにそのまま雷雲ネコさまの死角にひそみ、風を使ってここら一帯にまき散らしたんだ。静電気の元となる氷の粒、すなわち雪をね。
あとは風ネコさまにお願いして、辺り一帯に余計な風を吹かせないようにしてもらったよ。そうすることでこの辺の電荷を一定にしたんだって。
ま、電荷とかなんとかは難しくて分からなかったし、なんで雪が溶けちゃわないのかも、よくわかんないけどさ。
「なに、よく分からんものでも、それでどうにかなるのなら使っておけ」
っていうのは灼熱のマイケルの言葉だ。
3匹のマイケルは窒息しないよう、風の獣のネコパンチ(大)を使って雪を避けながら、雷雲ネコさまの周りを飛びまわった。
『俺を馬鹿にしているのかぁ!』
怒り、雷が放たれる。
その度、かき消える。
雷雲ネコさまは何度もそれを繰り返す。だけど風の獣に乗った子ネコたちは相変わらずびゅんびゅんと飛び回っている。あとに残るのは雪と子ネコだけ。苛立ちだけが膨れ上がる。いや、よく見れば雷雲ネコさまの雲の身体も膨れ上がっているみたいで正直、しっぽをまいて帰りたかった。
そこへ、
『いいぞいいぞー、膨れろ破裂しろー。破裂して爆発してどっちもくたばれー』
と風ネコさまがぐるぐると走り回りながら声援を送ってきたよ。ひどっ。
茶色いマイケルは、まぁ風ネコさまだしなぁ、くらいの感想だったけれど、そうもいかない神さまが目の前にはいた。
『――――――!』
もう怒りとしか言えないような何かを吐いたかと思えば、両前脚を空の”面”に叩きつけ、直接走ってきた! 恐ろしい口を開けて子ネコを噛み殺しにきたんだ。
「ひいっ!」
「ヤバぁっ!」
「降下降下降下! 最速で駆け下りろ!」
矢のように急降下する3匹。
恐ろしい呻き声を上げて後を追いかけてくる雷雲ネコさま。
最悪ともいえる状況。
その中で。
「揃った」
虚空のマイケルのつぶやき声が、深夜の水滴のように、頭に響いた。
そして。
それは、クラウン・マッターホルンの頂上を横切ったすぐ後のことだった。
「今だ。茶色」
虚空のマイケルの声を合図に、先頭を駆けていた茶色いマイケルがグルンと後ろを振り返る。
風の獣のネコパンチ(大)を連続で放つ。
いや1匹だけじゃない。他の2匹も急反転してネコパンチ(大)をひたすら放った。でもそれは、
『くっふふふふふはは! どこを狙っている!』
後を追ってきていた雷雲ネコさまからは、わずかに逸れていたんだ。
ぐわぁお、と大きな口が開かれる。その奥に地獄のような雷雲がのぞいている。雷雲の牙がバチッと光った。
「すまんな、雷雲ネコさま」
差し挟まれた声は、静かに燃えていた。
「相手がネコの姿である以上、ワシはそれを越えねばならんと、そう己に課したのだ」
『なっ――お前っ』
その子ネコはクラウン・マッターホルンの頂上に立っていた。右拳をわき腹に引きしぼり、荒ぶる風を身にまとって、全てが重なる瞬間を待っていた。
「ネコ拳――」
拳が走る。
身体をとりまく暴風がうねり、突き出される拳に乗って放たれる!
「――剛・腕・灼・熱ッ」
爆風は直進し、今まさに目の前を横切ろうとしていた『神世界鏡の欠片』を吹き飛ばした。
その先にあったあの、『尖った岩』へと向けて……!
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